自分で散らかしてしまった部屋を片付ける。
何でこんなに散らかしてしまったのだろう。思い返してみても解らない。
あれからどれ位経ったんだ。
そうだ。絵を描き終えたんだ。
“あいつ”の絵を描いたんだ。
当時はあまり構ってやれなかったから...。それでも文句言わず俺の帰りを待っていてくれた。
俺が何をしても唯待っていてくれた。
何時も笑顔で「お帰り、お兄ちゃん」って、帰りが遅くなっても、怪我をしてても。
まだガキだってのに...。

一筋の涙が頬を伝う。


「お前を幸せにするって誓ったのになぁ...。」


インターホーンが聞こえた。
居留守を使っても良かったが、悪い印象は出来るだけ与えないでと、ギフトに言われていたのを思い出した。
渋々モニターで誰が来たのかを確認した。

モニターに映っているのは、腹立たしい笑顔の持ち主ドールと近くに住んでいるシャタムと言うガキだ。
ドールの奴シャタムと知り合いだったのか。

玄関に向かい扉を開ける。
ドールの笑顔が降りかかる。
こうも腹の立つ笑顔は無いと俺は思う。


「何しに来たんだよ...。要が無いなら帰れ。」

「兄貴!!そんな冷たく言わなくても良いじゃねぇーか!」


俺の服を引っ張ってシャタムが言う。
服が伸びるから止めてくれ。


「別にお前は良い。」


頭を撫でつつ誤解を解く。
活発だが悪いガキでは無いからな。寧ろ良い子だ。
ドールが両手を頬に当てて、頬を膨らます。


「えぇーボクは駄目なの?」


其れで可愛いと思っているのか...。
28のおっさん手前が。


「お前の顔見てるとイライラする。」

「酷いなー、結構モテるんだよ!!取り放題なんだよ!!」

「別に自慢されても何とも思わねぇーよ。」

「セルリアは美人さんだからね。
あ、ボク男でもいけるよ。」


俺の顔に両手を添えて笑顔で言う。
絶対ヤらないからな。誰が化け物地味た奴と...。
そもそも男となんて御免だ。


「俺にそんな趣向は無ぇー。触んな!
つか、ガキの目の前で何つー事言ってんだ。」


ドールの手を払い除け、シャタムへ視線を向ける。
キラキラと純粋な瞳で見つめられていた。


「大人の男って色々あるんだな!兄貴!!」

「変な誤解ができちまったじゃねぇーか!!」

「まぁまぁ良いじゃない。成長ってのは色々あるんだよ。」


不意にドールが俺の耳元に口を近づける。
驚きで目を丸くしたまま何も出来なかった。
ドールにしては珍しく低い声色で、抑揚もなく囁いた。


「良かった...完全に壊れてなくて...」

「テメッ...!?」

「金髪の兄貴!兄貴に何言ったんだよ!!オレにも教えてくれよ!」

「駄目だよ〜。」


直ぐに何時もの調子になって、シャタムとじゃれ合うドール。
何でドールが知っているんだ。
勘か...、ドールは無駄に鋭い所があるから。


「はぁ...取り敢えず中は入れよ。何時までも玄関で喋ってる訳にはいかねぇーだろ。」

「やったね!!シャタム!早く入ろ!!」

「やったな!!金髪の兄貴!!」


何なんだ...金髪の兄貴ってのは。
中に入れたのは良いが、肝心のリビングは俺が荒らしたままだ。

...何で荒らしたんだっけ。
もう其の理由すら忘れてしまった。


「うわぁ...何これ。
セルリア!!片付けも出来なくなったの!?」

「喧嘩でもしたのか!!?兄貴!!」

「うるせぇな。
...覚えてねぇーんだよ。何でこんなに荒らしたのか。」

「へぇー覚えてないのか...。」

「んだよ其の意味深な言い方は」

「いーや、何でもないよ。
さぁ!皆で片付けよう!!」


ドールの声で俺達3人は部屋の片付けを始めた。
其の前に何でドールが仕切っているんだ。
俺のアトリエだぞ。此処は。