赤いボールペン




小さかったけど、少し低めの声。


まだ耳に残ってる。


なんでかわたしは、1人で勝手に感動していた。


内心、お〜〜〜!って感じで。


自分の行動にも自分で少し驚いた。


束ごと渡せばいいとこを、わざわざ声をかけて彼の分だけ渡すなんて。


我ながらいい仕事をしたと思う。


偶然だけど、話せちゃった。


今日はきっと、運がいいに違いない。


後から考えれば、たった一言くらいで大袈裟な話だけど、この時のわたしは本当にラッキーだと嬉しかった。


だって初めてだったんだもん。


この講義でプリントが配布されるのも、彼の声を聞いたのも、彼と目を合わせたのも。


ただそれだけのことだったけど、わたしは妙に機嫌がよくなっていたと思う。


いつもは眠いこの時間も、気づけばもう終わりに近づいていた。