赤いボールペン




講義が始まることを知らせるチャイムが鳴った瞬間、見慣れた顔がまた一つ、わたしから3つ左側隣に離れた場所へ、慌てたように腰をかけた。


おはようと声は、かけない。


だって、名前も知らなければ何の関わりもない人だから。


毎週月曜日の2限、この時間のこの講義だけ姿を見かける男の人。


1年生じゃないってことはわかるんだけど、どの学科なのかは知らない。


背が高くて、多分180センチを越えてるくらいあって、特別かっこいい!ってわけじゃないんだけど、ただ、横顔が綺麗だなあって。


いつもパーカーを着ていて、講義が始まる前に黒縁メガネをかける。


その動作をバレないように、いつも横目で見るのが楽しみだったりする。


わたし達5人は後ろの入り口付近にいつも席を陣取っていて、遅刻ギリギリに入ってくるこの人も、わたし達の近くにいることが多い。


いつも一人で講義を受けていて、いつも終わったと同時に席を立ってしまう。


声も名前も本当に何も知らない人なんだけど、実は…気になってたりする。


誰にも言えない、わたしだけの秘密。


1週間に一度の、楽しみなんだ。