赤いボールペン




「文学部の英文です」


「英文かー!俺は理工学部です」


「理系男子っぽいです!」


「あはは。よく言われる」


どうりでなかなか会わないはずだ。


基本の校舎の位置が全然違うんだもん。


メガネ越しではないその目からも、わたしは視線を外せなかった。


「じゃあ、また来週」


そう言って右手を軽く挙げると、先輩は大講義室から出て行った。


多分わたし、ボーッとしてる。


名前呼んでくれた。


学部教えてくれた。


また来週って言ってくれた。


どれも嬉しすぎて、嬉しすぎたけど、また1週間キョロキョロ先輩を探すのは嫌だって思った。


思ったら、立ち上がって、さっきはあんだけ渋ったのに、わたしは勢いよく走り出した。


「中津先輩!」


寒さなんて、不思議なくらい感じなかった。