とりあえず先輩から離れ、良太の後ろにリュックを置いた。
「おはよ」
「おーっす。あれ1人?」
「あれ…すず置いて来ちゃった」
なんだよそれって良太は笑う。
まあ恐らくトイレに行ったか、コンビニに行ったかだな。
もうすぐ講義が始まるというのに悠長なやつよ。
腰をかける前に左側へ顔を向けると、先輩は先週と同じ、わたしから3つ離れた席に座っていた。
もう、黒縁メガネをかけている。
そうだ。
わたしはそのまま座らないで、そーっと先輩に近づいて、1つ空けた席に座ってみた。
案の定わたしを見て不思議そうにする先輩。
「名前、教えてください」
「言ってなかったっけ?」
「聞いてないです」
どうしよう。
メガネ越しに目が合うって、こんなにドキドキするもんなの?
タレ目がちな彼の目に、どうしても夢中になってしまう。
「なかつじゅんぺいです」
ただ、名前を聞いただけなのに、なんだかとても価値のあるものを聞いたような感覚に襲われた。
いや、かなり価値あるよ。
すごくいいものを教えてもらっちゃった。
「どういう字ですか?」
「なかつはそのまま中津。じゅんぺいは、純粋の純に平和の平で、純平」
「純平!とてもいい名前ですね!」
「あはは。そうかな?そっちは?」
「山村ひかりです。ひらがなでひかり」
