赤いボールペン




名前と学部、聞き忘れた。


自分のを言うのも忘れてた。


気付いた頃にはもう先輩は随分先を歩いていて、呼ぼうかと思ったけど、だから肝心の名前がわからないわけで。


諦めて、先輩が校舎に入るまでその背中を見続けた。


次会った時にでも聞けばいいよね。


「ひかり、おはよー」


「誰と話してたの?」


気づくと、春奈とすずが、わたしの両サイドに立っていた。


うわあ、びっくりした。


「おはよ。まあ…ちょっと」


「え、なんで濁すの?」


「ひかりが怪しい!」


「別になんでもないよ!」


話す前からなんとなく先輩のことは気になってたけど、もちろんそんなことは誰にも言ったことはないし。


ただボールペンを間違えてたってだけの話なんだけど、先輩のことを説明するとなるとそっから話さなきゃいけないように思えて、なんとなくそれはやめた。


すずも春奈もこういう話好きそうだし、絶対めんどくさくなる。


大学に知り合いが増えた。


それだけ。