赤いボールペン




「恥ずかしい…」


「あはは。ごめんごめん。てか引き留めちゃったけど、昼大丈夫?」


先輩は左手首に付けた腕時計に目を落としながら言った。


わたしも同じようにすると、もう3限が始まる5分前だった。


「大丈夫です。食べてきたんで」


「次、講義?」


「そです。友達探しにここ来たんです」


そう言うと、ちょうどいいタイミングで中からみんなが出口に向かって歩いてるのが見えた。


すずがわたしに気付いたようで、ひかり〜!と口を動かして手を振っている。


わたしも振り返し、すぐに先輩に顔を向けた。


「じゃあ先輩、声かけてくれてありがとうございました」


「いや、俺こそありがとう。間違えてたのはごめんね」


「わたしが渡すの間違えたんです。気にしないでください」


なくなりかけてたインクが、新品の状態で手元に入ってきたのだから、そのままラッキーと思い使うことも出来たはずなのに。


わざわざ返してくれるなんて、律儀な人だ。


使わないようにしたってことは、使いたい時に不便だっただろうに。


「また月曜日」


「はい!」


先輩は軽く手を挙げて、わたし達が行くはずの校舎とは反対の方へ歩いて行った。


しばらく見送ってから、ハッと気づく。