少し一生懸命に話す彼がなんだかおかしくて、わたしはつい笑ってしまった。
「全然使ってもよかったのに」
「や、新品のものってあまり人に使われたくない?」
「んー確かに」
今日もグレーのパーカーを着ている彼は、少しだけ笑っていた。
さっきから新鮮なことばかりで、やっぱりわたしの頭はついていけていみたい。
いちいち、おおっなんて感動してしまう。
「じゃあこれ」
「あっ、はい」
間違われた赤いボールペンは、それぞれの持ち主の手に戻ってきて。
見慣れたはずのそれだけど、なんだかいつもより特別なものに見えた。
「使いやすいですよね、このボールペン」
「俺もそう思います」
お互いにペンケースをリュックにしまい、背中で背負い直す。
その瞬間、一瞬だけ間が空いた。
じゃあ、って歩き出せばよかったんだろうけど、なぜだか少し、それは物足りないと思ってしまった。
「あの」
今度はわたしの方が先に言葉を発していた。
