「昨日、俺ボールペン落とした時に、間違えてたみたいなんだけど」
彼は背負っていた黒のリュックを体の前にやり、がさごそと中を漁り出す。
わたしは、それを見ながら、頭が追いつけないでいた。
なんだこの状況は?
なんでわたし、この人と話してるんだ?
「これ」
そう言って彼が差し出した右手には、わたしと同じ赤いボールペン。
だけどなぜそれを見せるのかがわからなくて、ん?って顔で彼を見上げた。
「これ、君のじゃないですか?」
「え?」
「俺が使ってたやつ、もうほとんどインクがなくなったんだけど、これどう見ても新品だから、昨日落とした時に間違えたのかなーって」
真っ正面から見る彼はまだ少し見慣れないしなんだか不思議な感じ。
いつもは横顔ばかり見ていたから。
慌ててわたしもリュックを漁り、ペンケースから同じものを取り出す。
…あ。
「やっぱり!」
彼の言うとおり、わたしが持っていたものはインクがほとんどないものだった。
「昨日使おうとして気付いたんです。あ、安心して!1回も使ってないから」
