赤いボールペン




すずがそう言うと、みんな何も言わなくても食堂へと足を向ける。


月曜日のお昼は人が多いから、早く行かないと5人分の席なんて取れないこともある。


いつもは講義が終われば、今日の学食のメニューはなんだろうとウキウキしながら歩くのに、


今日は、違うことで頭がいっぱいだった。


歩きながらキョロキョロして、すれ違う学生みんなに目を向ける。


いないな、なんて思いながら。


もう帰っちゃったのかな、食堂にはいるかな。


何も知らなかった、彼のことを探していた。


何も知らなかったと過去形で言ったのは、今はもう2つを知ることができたから。


声と、背の高さ。


あ、あともう1個。


丁寧な人だなあってこと。


「ひかり、誰か探してんの?」


隣を歩いていた良太が、不思議そうな顔でわたしを見ていた。


「まあね」


「誰よ?」


「さあ。名前は知らない」


「はあ?」


はあと言われても、知らないもんは知らないんだから仕方ない。


手かがりになるのは、グレーのパーカーと黒のコートに、黒のリュック。


そして、あの身長。


どうやら見る限りは見当たらない。


どっかの校舎に入っちゃったか、帰ったか。


なんにせよ、この広いキャンパスの中で手かがりもなしに探すのは厳しいものがある。