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11月。
ついこの間までは大学に入学したてで、広いキャンパスはわたし達1年生を戸惑わせ、
キラキラしてる先輩達にただ憧れていた。
何もかも新鮮だったのは最初の数週間だけ。
今となっては「次の講義はどこの教室だっけ?」なんて声も、仲間内で聞こえなくなった。
今年の春はまだ冬の寒さが残っていて5月になるまでとにかく寒かった。
その時着ていたコートに袖を通すと、時間が経つのって早いなあなんて感慨深くなる。
「ひかり!おはよ!」
駅の改札を出ると、朝から元気いっぱいな勝瀬鈴香が手を振っているのが見えた。
「すずたんおはよ〜」
「えっ、ちょっとマフラーはまだ早くない?」
「耐えられなかった…」
ボルドーのマフラーをグルグルに巻きつけた中に顔をうずめ、肩を竦ませながらすずと歩き出した。
すずは、大学に入って初めて出来た友達。
背は小さいけど、元気があっていつもニコニコしてる可愛い女の子。