そして月日は流れ、四度目の冬になり、またニコラスのことを考えた。

「元気かな…。」

しかし、いまさら連絡をするのは変に感じて、私メッセージすら送ることができなかった。
それなので、私は久しぶりにSNSを開いてみた。ニコラスの近況を確認してみたが、彼も同じく暫く投稿していないようだった。
懐かしくなった私は昔の動画を見てみることにした。パソコンの前にすわり、曲を聴く。たった数年前のことなのに、すごく遠い昔の出来事に感じる。彼の演奏は光輝いているようで、今も美しく響いた。


その夜、彼の夢を見た。セレナーデを奏でる彼の音はどこか悲しげで、憂いを帯びた甘美な旋律が心に沁みた。

ふと、目が覚めると、まだ朝の3時だった。あまりにもはっきりした夢を見たので、私はニコラスにメールを書くことにした。

ーこんにちは、ニコラス、久しぶり。奏美です。たった今、あなたの夢を見てね、どうしてるかな、と思って連絡してみました。

私は学校でトップの歌手になれました。それから、音楽コンクールでも優勝しました。私がドイツに行ったあの時、あなたの言葉がなかったら私は今頃歌っていなかったのかと考えると、とても変に感じます。でも、あの時、あの言葉がなければ、私たちはもっと上手くやっていけたかもしれないとも思います。

ねえ、何を間違ってしまったかわからないけれど、私は謝らなくてはいけないと思います。あなたはいつでも優しくて、素敵だったから、きっと悪いのは私ね。もっと考えて、心から感じ取ればよかった。ごめんなさい。

きっとあなたはヴァイオリンの勉強を続けているのでしょうね。
私は、変わりました。卒業したら、デビューすることが決まっています。いつか、ヨーロッパでも公演する日が来るかもしれない。もしかしたら、共演することもあるかもしれないー。そんな日を夢見て、まだまだたくさんすることがあるから、頑張ろうと思います。

私たちはいつでも繋がっていられると思っていた。でも、やっぱり無理でしたね。
こんなメールをいきなり送ってしまい、ごめんなさい。読んで不快な思いをしたら、すぐに消去してね。ーいつだって、気まぐれな奏美より


ーハイ!奏美、元気そうでなによりだよ。
待って、なんで僕が君のメールを不快だと思うの?そんなのナンセンスだよ!
僕はいつだって、君の声を見つけてよかったと思っているよ。そして、あの時、あの言葉を言ったのは間違いじゃなかったんだ。そうでなければ、今の君は存在しないでしょう?だから、謝らないで。人生の中で、そういう出来事があるんだよ。
僕は本当に、心から君を愛していたし、それは夢なんかじゃないよ。僕の知っている奏美は、ちょっと自信なくて、でも意思があって、情熱的で、幸せのオーラを振りまいているような女の子だよ。君の根本的な部分は、きっと変わっていないはず。あ、でも、自信はついたのかもね。
僕は君と疎遠になってしまったことを本当に後悔しているよ。本当は傍にいるべきだったのに…。

自分のことを少し話そうかな。僕は未だにドイツにいて、小学校で音楽の先生をしているよ。音楽に関わっているから、いいでしょう?本当は教えることより、演奏するほうが好きなんだけど、ビザの関係があってね。良いところは、生徒と同じく休みがあることかな!だから、毎年両親や友達と会えるんだ。

こうやって連絡が取れて嬉しいよ。また機会があったら話したいね。じゃあ、またね。 ーそんなに気まぐれじゃないけど、気まぐれにもなりうるニコラスより

私は彼のメールを見て涙が出てきた。ニコラスは、ニコラスのままだった。優しくて素敵な、彼のままだった。