ーニコラスは私が信頼できる唯一の人なの…地獄から助けて!

ーどうしたの?何かあった?

日本に帰国して3カ月、私は最悪の状況にいた。

ー何があったか話せる?

ーううん、今は無理みたい…。

ーねえ、詳しくはわからないけれど、僕はいつでも話しを聞くためにここにいるからね。

ーありがとう。

ー君は一人じゃないから…。傷は共有できるよ。

ーでも、私は孤独で捨てられた気分なの。

ーそんなこと、考えないで!それは事実じゃないよ。君は自分で思っているより、たくさんの人に愛されているんだよ。知っているだろう?みんな君が大好きなんだから。生きていると、憂鬱でとっても孤独に感じる時間があるだろうけど、それは、君を想う友達が一人もいなくなったわけじゃないよ。ミンジーだって、信頼できると思うよ。それから、僕もいつも傍にいるから…。

ーそうかしら…。

ーそうだよ。まわりを見てみて。

ーうん。

ー元気を出して!大丈夫だから。

日本は私の精気を吸い取る。たった4年、この国から離れただけなのに、何もかもついていけない。
日本で頑張るって決めたのに、何もできない自分が悔しかった。

ーねえ、ニコラスのヴァイオリンを聴きたい。

ーえ?そうだなー。今から行こうか?

ーあはは!来て!もしくはSNSに投稿して!

ーそれは勘弁して!恥ずかしいから!そうだ、今度逢いに行くときはヴァイオリンを持っていくよ。それならいいだろう?

ーうん。

少し、気分が晴れた気がした。



翌朝、SNSをチェックすると、ニコラスからメッセージが届いていた。

ー秘密のグループを作ったよ。これで、二人だけの音楽会ができるね!

早速投稿があったが、知らない曲だった。でも、前に彼が演奏しているのを聴いたことがある気がするー。
聴き終えると、最後にこんな画面が出てきた。

ーセレナーデを君に捧ぐ 愛を込めて ニコラスより

ニコラスが作った曲?驚いた、彼には作曲の才能もあったなんて…。私も音楽の授業何曲か作ったけれど、どれも大変に時間がかかって、結局苦労の割には良い評価はもらえなかった。

私は何度も再生した。ニコラスの美しい音は、幾度聴いても飽きかった。
彼は次々と懐かしい曲をアップロードしてくれた。私は聴く度に、音楽に対しても彼に対しても恋しい気持ちが込み上げてきた。


ーねえ、ニコラス、私は間違った生き方をしているみたい。もし、私に音楽の才能があるのなら、それは神様が与えて下さったもので、それを自分の力で閉じ込めるのは正しくないよね。
あなたと出逢うまで、私の能力は眠っていたのかもしれないけれど、一度目覚めたものを封じ込めるのは大変みたい。

いつか、あなたは僕には才能があるとは言えないと言っていたけれど、私にはわかるー。
あなたは、確実に何かを持って生まれてきたということを。
ドイツへ行って、気づいたことがたくさんあるの。そして、日本に帰ってきて気づいたことも、いっぱいあるの。

私ね、やっぱり音楽が好きなんだと思う。あなたの音楽に恋い焦がれて、想いを馳せて、愛を受け取って…。音楽を感じられる幸せは、音楽を奏でる人にしかわからないのかもしれない。そして、私はもっとそれを感じていたい。

これから、声楽を習うことにしたの。ママの同級生がね、今は先生になっていて、その方が教えて下さることになったの。
夢を追うのは、いつになっても遅くないよね? たくさんの愛を込めて 奏美より