「ねえ、外に行こうよ!」

ある日の夕方、ニコラスが突然言い出した。

「夜は凍え死ぬんじゃなかったの?」

「まあね。でも短時間ならいいでしょう?暖かい格好をして!」

私はセーターにコートを羽織り、カシミアのストールを巻いて、革製のグローブをはめた。スカートだったけれど、タイツと毛糸の靴下を履いているから、平気かな。

深い茶色のブーツは、ドイツに来るために滑り止めを裏張りしてきた。

「これで大丈夫かな?」

「完璧だね!」

「どこに行くの?」

「良いところ。」

「夜景を見に行くのね!」

「当たり!」

私たちは、町のはずれにある丘の上の塔にやってきた。ここは昔、大公が芸術家を集めて住まわせた村だそうで、不思議な建物がたくさん建っていた。

「この塔はね、昔大公と妃の結婚を記念して建てられたんだ。」

「変わった形の塔ね。」

「そうだね。結婚を宣誓する時の『手』を模して造られたみたいだよ。」

「そうなの?不思議なデザインだと思った!」

「ははは、ねえ、見て。側面に日時計があるだろう?」

「ええ。」

「12星座がモザイクで表現されているんだ。」

「わあ!素敵!でも、ここ、もっと明るい昼間に来た方が綺麗なんじゃない?」

「でも、夕方もいいんだよ。」

「これ、登れるの?」

「うん、行こう!急がないと、閉館されちゃう!」

エレベーターで上まで来ると、辺りを見渡せた。

「ここが僕の住んでいる町。」

「綺麗ね…。」

「ね、この時間もいいでしょう?」

「ふふふ、おとぎ話に出てくる町に来たのね!」

「ようこそ、メルヘンの国へ!」

塔を降りると、星が出ていた。

「ほら、空を見て!」

「一番星ね!」

「あれは宵の明星だね。」

「ヴェスパー?」

「そう、Vesper。金星のことだよ。」

「金星ね!」

「宵の明星が清らかな光を放つと、いつだって神秘的な気分になるだろう?」

「あなたは幻想の世界に住んでいるの?」

「君だって、同じ世界の住人だよ?」

「そうかな…。私はニコラスほど知識がないから。」

「知識の問題じゃなくて、感じられる心の問題だよ。」

「ゲーテの詩みたいな?」

「そう、彼は感じる心と経験で秀作を生み出したと思うよ。」

「天才なんじゃなくて?」

「そうでもあるかもね。」

帰宅するとニコラスは小さな箱を差し出した。

「開けてみて?」

「クリスマスプレゼント?」

「うん。」

「嬉しい!」

そっと開くと、そこには三日月の下に星が光る、繊細な造りのネックレスがあった。

「月と星のランデブー!」

「今日は星しか見えなくて残念だったけれど、本当にこんな位置で観測できる日もあるんだよ。」

「知らなかった!日本でも見れる?」

「見えると思うよ。」

「素敵ね…。どこで買ったの?」

「これは手作りアクセサリーでね、露店で見つけて手に入れたから、世界でひとつしかないオリジナルだよ。」

「こんなの、手作りできるの?」

「ここは芸術家の村だからね!」