私は一度、日本のおばあちゃんの家に寄ってからドイツへ行くことにした。

毎年のことだけど、成田空港はどんよりしていて、籠ったにおいがした。


ー卒業おめでとう!奏美が帰国する前に電話をしようと思ってたら、時差の計算を間違えしまったみたいで、できなかったよ…。
なんでだか、こちらの時間の方が早いと勘違いしちゃってね。バカだよなぁ。まあ、それはさておき、元気?
日本はとても寒いでしょう?だって、ヨーロッパも凍えるほど寒いから…。でも、まだ雪は降っていないんだ。
クリスマスに逢えるのを楽しみにしてるよ。君に必要なものは全てこっちにあるから…たぶん。じゃあ、またね! たくさんの愛を込めて ニコラスより



12月21日、出国の朝。贅沢を言ってフランクフルトまでの直行便を予約していたので、飛行機に乗ってしまえば着くのだけど、それまでが不安だ。私は一人で知らない国に行くのは初めてだった。

搭乗手続きが始まる。緊張しながら乗り込むと、笑顔の乗務員さんたちが迎えてくれた。

離陸後、暫く経つと私はモニターの調子が悪いことに気がついた。

「すみません。モニターの調子が悪いようで、映画が見れないのですがー。」

男性の乗務員さんはすぐに確認してくれたが、直ることはなかった。

「申し訳ございません。調整してみたのですが、直らないようで…。」

さてー、12時間、何をして過ごそう?

彼は度々私の席に来て、フルーツやチョコレートを持ってきてくれた。恐らく、ファーストクラスで提供されるものだろう。どれも美味しくて、少し得した気分になった。

しかし、あまりにも退屈なので、寝たかったのだけどなかなか寝付けなかった。ぼんやりしながら過ごしていたら、意外にも早くドイツに着いた。

「ようこそ、ドイツへ!」

ニコラスが迎えに来てくれた。

「逢いたかった!」

これから1ヶ月間、ずっと一緒にいられる。

ニコラスの学校はフランクフルトから30分ほどの町にあるそうで、そこは学問の町と呼ばれているそうだ。

「着いたよ。ここが僕のアパトルマン。」

「アパート?」

「そう、中に入って。」

そう言うと、ドアを開けて荷物を運んでくれた。

「綺麗なお部屋!」

「あんまり広くなくてごめんね。」

「そんなことないよ!大丈夫。」

「フライトはどうだった?疲れた?」

「ううん、でも、退屈だった。モニターがね、壊れていて映画が見れなかったの。」

「それは最悪だね!」

「ええ、でも、乗務員さんが良い人でね、お菓子やフルーツをたくさん頂いたの。苺、美味しかったな!」

「損したのか得したのかわからないね。」

「想像していたより、早くドイツ着いたから、良しとするわ!」

「ははは、そうか。さて、少し休憩したら、出かけようか?」

「うん!」