「あー、緊張した!」

私たちは夜景の見える丘に来ていた。

「私もドキドキしちゃった!」

「でも、良い機会だったよ。招待してくれてありがとう。」

「ママが考えたのよ。感謝しなきゃ。」

「そうだね。」

「この夜景を見るのも最後かな?」

「いつだって、帰ってくればいいよ。」

「ここは私の実家じゃないからー。」

「そうだけど、僕だってここの生まれじゃないよ。」

「え?そうなの?てっきり、この国の生まれかと思ってた!」

「僕は韓国生まれなんだ。」

「お母さんは韓国の方だけど、お父さんは?」

「父も韓国人でね、音楽家なんだ。」

「そうなの?いつこっちに来たの?」

「8歳の時。僕はヴァイオリンが上手でさ、本場で学んだほうが良いと言われていたんだ。そしたら父がね、この国はヨーロッパのどこかにあると勘違いして、移住してきんだけど、許可が下りてわかったことは、南半球だってこと!」

「お父さん、早とちりしちゃったのね。」

「そう、母さんは驚いてね。あの時は大変だったな。」

「ふふふ、それで、どうしたの?」

「仕方がないから、ここで勉強するしかないだろう?でも、大学に進学して、それからまたドイツの大学に行って、君に出逢った。結果は悪くないよ。」

「運命の悪戯で出逢ったのね!」

「そうだね!良かったよ。」

「ねえ、3ヶ国語が話せるって、どんな感じ?」

「普通だよ。」

「夢は何語で見るの?」

「そうだなー、一つの言語の時もあれば、混じっている時もあるよ。君だって、2ヶ国語を話すんだから、わかるだろう?」

「確かに、混じっている夢は見る!」

「でしょう。それと同じ。」

「ドイツ語の勉強、大変だった?」

「まあね、でも、英語と似てるから。」

「頭が良いのね。」

「違うよ、感じる心が広いだけ、かな?」

「私もそうなりたいな!」

「奏美の感性は鋭いだろう?」

「そうかな…。」

「そうだよ。」

私たちはいつまでも夜景を見ながら話していた。

「そろそろ送って行くよ。」

「うん。」

「ねえ、ドイツに来たら、たくさん楽しいことをしよう。そして、美しいものにたくさん触れよう。」

「うん、約束ね。」

「約束。」