ー千人もいるオーケストラでソロなんてすごいね!SSSOでできなかった分も頑張るんだよ!ドイツは暑くなってきたよ。そっちはだんだん寒くなってきているでしょう?風邪をひかないように気をつけてねー。もうすぐ逢えるのが楽しみで仕方ないよ!待っててね!ー愛を込めて ニコラスより


本番当日、私たちの学校の番が終わって、他の団体の演奏を聴いていた。全て終わると、審査講評がそれぞれの指揮者に渡され、全員で平和に演奏して終わり。

千人の学生が一堂に集まり、オーケストラを編成する。

「市立フィルハーモニーオーケストラの名誉指揮者、サー・ウィリアム・マクアダムスの登場です!」

拍手の代わりに足を鳴らし敬意を示す。

「みなさん、本日はとても良い演奏をありがとうございました。若いエネルギーがひしひしと伝わってきましたよ。これからも、音楽を楽しんで下さいね!
では、始めましょうか。チューニング!
ー良いですね。それでは、天国と地獄から。」

私が観客の前で演奏するのは最後かもしれない。もっと楽しめばよかった。

小さい頃は練習が嫌いだった。ピアノの運指がわからなくて、怒られながらレッスンをした。そして、ヴァイオリンに出会った。この楽器は幼ければ幼いほど飲み込みが良いようで、ある程度大きくなってから始めた私はさっぱり上達しなかった。そして、半ば諦めかけていた時に始めたのがオーボエ。波長が合うのか先生が良かったのか、メキメキと頭角を現した私は、今こうしてコンサートホールにいる。『信じられない!』そうかもしれない。

もう少しだけ、音楽を感じよう。ニコラスのような演奏はできないかもしれないけれど、私の気持ちをこの旋律に託そう。私ができるのは、これくらい。でも、満足。音楽は、楽しかった。

ホールは割れんばかりの拍手で包まれた。

「奏美!」

「先生!」

「すごく良かったね!楽しかった?」

「ーはい。」

「でしょう?それが音楽ってものさ!」

「ありがとうございました。」

「どういたしまして。」