家に帰ると、黄色いボロボロの段ボールがダイニングテーブルの上に置いてあった。

「誰から?」

「奏美にだって!」

「ニコラス?」

「そう書いてあるよ。」

中身は大量のチョコレートだった。メッセージは…。

ー甘いお菓子を可愛い君に。愛を込めて、ニコラスより。

「彼は、チョコレート以上のものを送ってきたみたいね。」

ママはニヤニヤしながら言った。

「ママにも分けてね。」

「うん!一緒に食べよう!」

私はママに全てを話した。ニコラスがどんな人で、どんな音楽を奏でるか。そして、日本で逢ったことも。意外にも好意的に話しを聞いてくれて、こう言った。

「青春時代は短いものよ。」



今学期はあっさり終わったが、最高学年の勉強は専門的で頭が痛い。

「やっと休みだー!」

「いいね…私はSSSOに参加するから、休んでいる暇なんてなさそうよ…。」

「奏美、よく受けたね…。」

「押しに弱くてね。」

「でも、絶対良い経験になるぞ!俺は知ってるよ!」

「ありがとう。でも、もう学校に戻ってこれなくなるかも。」

「SSSOってそんなに厳しいの?」

ミンジーが暢気に聞いた。

「厳しいっていうか、ハードだよな。」

「そうね、朝9時から夕方5時まで練習だしね。」

「なにそれ!疲れるじゃん!」

「しかも、家に帰ってからも、予習と復習をしなくてはいけないという…。」

「まじで?私には無理だわ!」

もうすでに、演奏する楽譜は配られていたから、私は練習を始めていた。グリーグ、バーンスタイン、シベリウス。今年は協奏曲はないので、目立ちたがり屋の学生たちの非難から回避できそうだ。

練習初日、続々と男子校に生徒が集まる。この学校は大変に古い歴史があり、街の優秀な男子たちが学びを共にする、古い校舎。レンガ造りで、瀟洒な雰囲気の、ちょっと気取った学校。そのホールに私はやってきた。

ゴンっ!

コントラバスを持った、楽器より小さな女の子が階段に躓いている。

「大丈夫ですか?」

「ありがとう、この階段、急ですよね!」

後ろから、体格の良い男性が来て、彼女を手伝う。

「なんで今年はこんな不便なホールでやるんだか…。」

彼はブツブツ言いながら、荷物を運んでいた。