12月ー。試験は午前と午後に分かれて実施される。これが終われば夏休み!

「最後の試験は?私は数学。」

「俺は日本語。」

「私も日本語。」

「みんな残念ね…最終日まで試験があるなんて!」

「奏美、全然悲しんでないでしょう!」

「ばれた?」

「いいよなー外国語を取ってない人はー!」

「まあね。でも、最初が経済の試験っていうのも、なかなか辛いものよ…。」

「おぇー!経済なんて取るからだよー!」

この国では、高校一年から自分の勉強したい科目を自由に学ぶことができる。裏を返すと、勉強したくない科目は選択しなくても良い訳だ。

「来年は何を取るの?」

「現状維持かなー。」

ジョッシュがぼんやりと言った。

「奏美は?」

「私は音楽はやめようと思う。最終学年だし、他の科目に集中したいから。」

「うっそでしょ?」

ミンジーとジョッシュは顔を見合わせて言った。

「オーケストラはやめないけどね。」

「でも、単位稼げないじゃん!」

「バカね、ジョッシュは!奏美は優秀なの。一教科やめたくらいで単位が減ったりしないの!」

「そんなに優秀じゃないけど…。私はアメリカの大学に行きたいから、真面目に勉強しないと。」

「アメリカ?この国の大学に進学するのかと思ってた!」

ジョッシュが素っ頓狂な声をあげた。

「何言ってるの、私だって韓国の大学に進学するよ。」

ミンジーが遠い目で言う。

「なになに、みんな帰国するの?俺、一人じゃん!」

「そういうジョッシュはどうするの?」

私はすごく興味があって聞いてみた。

「…。まだ考え中。ギャップイヤーを使って、一年間放浪しようと思ってる。」

「はぁー?世の中そんなに甘くないよ!」

ミンジーは厳しい韓国社会で生きてきたのでシビアだ。

「いいだろ、この国では普通のことだよ。社会に出たら、旅行なんてそうそうできないだろ?今のうちにいろんなところを見て、感じて、人間性を豊かにするんだ。」

「それで、大学に入れるの?」

「入れるんだよ。それに、いろんな体験をした学生を大学は欲しがるからね。」

「良い文化だわー!」

「日本にも確か、ギャップイヤー推進協会があった気がするよ。」

「本当?私だけが知らないの?なにそれ!」

ジョッシュは正解かもしれない。ガツガツ勉強したところで、得られるものなんて何もない。ただ、頭でっかちになって、卒業したら企業に入って、定年まで働く。それのなにが楽しいのだろう?

「アメリカの大学は9月からだけど、こっちは12月で学年が終わるだろう?その間どうするんだ?」

「卒業したら、とりあえず日本に戻って、ボランティアをしようと思うの。」

「この中で一番堅実なのは奏美だね!」

「なによ!私だって堅実だわ!」

ミンジーが口を尖らせながら言った。