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お母さんはいつ出て行ったのだろうか。お父さんの仕事は何なのだろうか。
俺が物心ついた頃にはもうそんな疑問を抱いていた。
築何年なのかは分からないがかなり古ぼけた一戸建てに俺とお父さんは二人で暮らしていた。お父さんは優しい人間で文句も不満も言わず男手一人で俺を育ててくれた。休日には一緒に遊んでくれてよく笑っていた。
立派な魔法使いになって俺のために頑張ってくれていたお父さんにいつか一生分の恩返しをする・・・それが夢だった。
でも、その夢は叶わなかった。
父の言動に異変が起きたのは突然のことだった。
時刻は零時丁度だった。

「こっちにおいで」

「何?お父さん」

十五歳の誕生日を迎えたばかりの俺は布団に潜ったお父さんに呼ばれそのまま同じ布団に身を包んだ。すると、お父さんは俺の顔を自分の大きな体に押し付けて強く抱き締めてきた。

「ごめんな。こんな頼りない父さんで・・・お前のために何も出来なかった。まともに食わせてやれなかった。なのに、今まで育ってくれてありがとう」

温かいお父さんの言葉に目の奥が熱くなる。

「誕生日おめでとう」

「・・・何言ってんの。これからも育っていくから。だから、ずっとそんな頼りない俺の好きなお父さんでいてよ。いつか恩返しするから」

あまり口にしないお父さんへの気持ちはきちんと伝わったらしい。お父さんの腕と体が震えていたのだ。俺の耳元で涙声の「ありがとう」が何度も聞こえてきた。それはとても聞き心地が良くていつの間にか眠りについてしまった。


*

玄関からの物音で目を覚ました。昨晩あった温もりは俺の中から抜けていて
起きるとお父さんの姿はどこにもなく、王の下で仕えている魔法使い達に囲まれていた。

「大罪人の哀れな子供、貴様は捨てられたのだ。来い。反抗すれば命は無い」

その声は酷く冷たく、聞くだけで俺の心を鎖が締め付けた様な感覚に囚われた。