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妙に暖かい光が閉じている瞼越しに眼球を刺激している。眠っていた脳を起こしてゆっくりと瞼を開けると、構成は同じだが明らかに自分の部屋ではないということに秒速で気付いた。ベッドに沈めていた上半身を勢いよく起こした。その時に首後ろ部分に痛みが宿っていることに気が付き思わず右手で押さえてしまった。レオの名前を呼びながらその姿を目で探す。

「レオの部屋・・・レオ!どこ!?」

「朝から大声出さないで。近所迷惑だから」

私が振り返ると制服姿のレオがトイレから出てきていた。レオの姿が目に入った瞬間、一人じゃなくて良かった・・・などと思い私の心は一気に安らいだ。
しかし、その数秒後に私はレオの異変に気付く。

「レオ、なんか今日いつもより髪の毛ぼさぼさじゃない?目の下の隈もひどいしかなり疲れてる気が・・・もしかして私がここで寝てたから?迷惑かけた?てか何で私ここで寝てるの!?そうだよ!何でだよ!!」

私はレオに迷惑かけてしまったのではないかという罪悪感と私がレオの部屋で寝た理由が分からなくて困惑に陥っているため色々な感情が交差する。このままでは狂ってしまう。

「だからうるさいって!別に迷惑じゃなかったから。ちょっと鬱陶しい虫が二匹、風呂場にいただけだから」

狂ってしまう前にレオの声が耳に届いた。鬱陶しい虫とは・・・?あの世にも恐ろしいゴキちゃんのことだろうか。レオは虫が苦手なのかなどという思考を勝手に巡らせ、レオの弱点は虫だと勝手に私の脳が決めつけてしまった。

「それはそうと自分のスマホ見てみなよ」

「携帯?」

レオに言われた通り私は自分のスマホを見てみる。画面には"不在着信104件"という文字が表示されていた。その文字に私の全身の血が一気に引いた。

「ヤバイ・・・絶対凌太だ。こ、殺される・・・」

そう呟いた直後、携帯の着信音が部屋に響いた。勿論その着信音を発しているのは私の携帯だ。凌太という名前が携帯画面に表示されると共に鳴り響く着信音は私にとって死へと近づいていく不吉なメロディーだった。

「お疲れ様でーす」

汗だくになっている私に思いやる心なんてレオにはない。まるで他人事の様に思っている・・・いや、確かにレオからしてみれば他人事だけども。
レオは鞄を持って学園へと登校しようとする。が、それは叶わなかった。レオが玄関の目の前に来ると同時に玄関の扉が開いた。扉を開けた人物は凌太だ。私はその姿に一瞬ぎょっとしたが凌太は目の前のレオには目もくれず、土足のまま私の元へと走ってきた。

「巳鶴!」

私の名前を叫びながら勢いよく抱きついてくると耳元で暴言を連呼する。

「馬鹿・・・馬鹿!禿げアホちび貧乳!馬鹿!」

「なっ、貧乳は関係ない・・・」

「無事で良かった」

凌太の言葉が増えていけば増えていくほど私を抱く力も強くなっていった。そのため、連呼されていた暴言でさえも暖かく感じた。