目の前で女の子が困っている。頭を下げてまでお願いしているのにそれを断れるほどレオの心は狭くなかった。

「はいはい。わかったよ・・・でも俺の成績と生徒会に入ることってなんか関係あんの?」

「学力テストと実技テストの総合点数で上位3名は生徒会に入る権利を得ることができるの」

レオは納得しながらも不安な表情を見せた。自分はともかく、巳鶴は魔法を使えるのだろうか?

「俺は魔法も学力も大丈夫だけど、蛍と巳鶴は?」

「俺も大丈夫。巳鶴は学力の方は問題ないと思うけど、魔法の方はどうだろう・・・精神を男子の2倍削るってとこがやっぱ厳しいかな」

「蛍も女子でしょ」

「俺は家族が全員この学園に通ってたから小さい頃から魔法は教わってた・・・って言っても一人で資料読みながらとかだけど」

笑いながらそう告げる蛍の顔。それはレオからは少し辛そうに見えた。無理に笑わなくていいのに。そう思ったがその言葉を口には出せなかった。無理してでも笑わなければやっていけない理由が本人にあるのだろう。きっと。
だから何も言わない。だけど、自分なりに出来ることはやる。レオは蛍の両頬に手を添えるとおでこをくっつけて呪文を唱えた。

「confM(コンフエム)解放」

呪文を告げ終えると蛍の体から光の粒子が溢れ出た。その粒子はレオ達のいる位置よりも高く舞い上がると空気と一体化してしまった。

「レオさん?今の魔法って__」

「用事思い出した。職員室行ってくる」

蛍の声を遮ってそう言うとレオは蛍と巳鶴を残して屋上から去った。
先程レオが蛍に放った魔法___"癒し魔法"。簡単に言えば心を癒してくれる魔法だ。この魔法は素人が真似して出来るような魔法じゃない。かなり上級者向けの魔法だ。蛍が辛そうにしているのを見てみぬふりは出来なかったのだろう。

「ん〜・・・調子狂っちゃうな」

蛍は頭を掻きながらそう呟くとレオには見えていなかった花の冠を手に持ち、しばらく見つめるとそれを巳鶴の頭に乗せた。すると、その花の冠は蛍の頭に乗っていた時とは違う色になったのだ。蛍の時よりも確実に明るく、綺麗な色をしていた。

「やっぱり、綺麗な色だった」

そう言って蛍は同性と身内にしか見えない、人の心を投影する花の冠を見て微笑んだ。