「何それ…不意打ち」

「へ?」

「何でもねぇ、コンビニ行ってくるから風呂済ませとけ」

そう言うと凌太は財布を持って部屋を出たが何だか落ち着きがなかった。

「あ、カルボナーラ食べたいって言い忘れた…買ってくれるかな?」

私は凌太がカルボナーラを買ってくれることを祈って入浴した。



*



――その頃の凌太――

「いらっしゃいませー」

女性店員のやけに高い声が耳に入る。俺は入口の近くにあるカゴを手にすると何の迷いもなく弁当コーナーへと足を進ませる。

「…あいつカルボナーラ好きそうだな」

あいつ…巳鶴の顔を思い浮かべてカルボナーラをカゴの中に入れた。

『…期待、してもいいんだよね?』

ふと俺の脳内で巳鶴のその言葉がリピートされる。
ガキの頃に好きだった奴が何も変わらない姿で急に現れて同じ部屋に住んで、無防備に隣で寝られて…そろそろ俺のことを一人の男として意識して欲しい。そう思ってる時に期待していいかなんて聞かれると……調子が狂う。
分かってる。俺に頼っていいかどうかの期待だろ?そんなの分かってるんだけど…勘違いしてしまう。カゴを持っていない空いている片手で自分の髪をくしゃっとする。

「……ずっと好きなんだよ、巳鶴」

その気恥ずかしいセリフは無意識に口から漏れていた。それに気付くと口を抑えて周りからの視線を気にする。誰にも聞こえていなかったみたいだ。
良かった…会計を済ませて漫画立ち読みしてから帰ろう。早く帰り過ぎても巳鶴の風呂は済んでないだろうし。
弁当コーナーで突っ立っていた体をレジへと向かわせる途中、並べられてあるケーキが目にとまった。
……そういえば、巳鶴の誕生日って一ヶ月後だったよな。
俺は漫画の立ち読みをやめて一ヶ月後の巳鶴の誕生日のためにプレゼントを考えながらゆっくり歩いて寮へと帰って行った。