殴られたくないよね。うん。
凌太の言葉に汗を垂らしていると茶髪が私の顔をじっと見つめる。

「秋星くんだったっけ?なんか…顔もそうなんだけど、声も女の子っぽいよね」

放たれた言葉にギクリとする。
バレたら…終わりだよね。

「よ、よく女に間違われます!」

なんとか誤魔化そうと声を振り絞る。すると、茶髪はにこっと笑いながら「やっぱりね」と言う。良かった。誤魔化せたか。

「そーだよ副会長。僕こんな胸の無い女なんて見たことないし」

ちょっと待て童顔。胸については触れないでくれるとありがたいのだが。そして全国の貧乳女子達に謝れ!!

「おいお前ら、雑談はそこまでにしていい加減部屋に戻れ」

「そうだね。凌ちゃんが言うなら部屋に戻るよ。おやすみ!秋星くん、凌ちゃん!」

全国の貧乳女子を敵に回した童顔が手を振りながら部屋から出て行った。童顔に続いて他の人達も皆「おやすみ」を言いながら部屋から去る。部屋に残ったのは私と凌太だけだった。
嵐が去った様に静かだ。まるで、さっきとは別の空間にいるみたい。

「…晩飯、食うか?」

「うん」

私は凌太に差し出された袋を受け取り中に入っている弁当とお茶を取り出す。現在時刻、二十二時。こんな時間に食べ物なんか食ったら太ってしまうのは分かっているが生憎昼飯も食べずに昼寝をしたため何か口にしないと死んでしまいそうだった。
胃袋が空っぽのせいかコンビニ弁当が異様に美味しく感じた。

「それ食ったら風呂入って寝ろよ」

「ふぁーい」

口にご飯を詰め込みながら凌太に返事をする。女子力の欠片もない行為に凌太は少し引き気味だったが今の私は"男"なのだ。そんな顔されても傷つきませんわよ。

「ごちそうさまでした」

両手を合わせてそう唱えるとごみを袋に入れてそのままゴミ箱へと放り込み、荷物の中から着替えとタオルを取ると凌太に背を向けて浴室へと足を進ませた。