対応は激甘でお願いします

「今日はもう、料理したくないなー……」


 薄暗い駐車場を静かに歩いて、溜息をつく。

 時間帯的にも、体力的にも、作り置きしたものをもそもそしよう。

 この時間から食べると太ってしまう。


 そんなことを思いながら駐輪場へ到着すると――。


「……なんで俺ばっかり」
「!?」


 唐突に聞こえた男の人の声に、びくりとする。

 え、いまの、どこから聞こえた?

 周囲が薄暗いだけにびくびくしながら周囲を見渡すと、駐輪場の影にある喫煙所に人影が見えた。

 それを恐る恐る、できるだけ静かに確認すると――。


「ったく……」


 どんよりと濁った瞳。

 片手に持った缶コーヒー。

 疲れ切った様子で膝を屈めているのは、上司の佐藤さんだった。


 ――佐藤透(さとうとおる)さん。

 切れ長い瞳に作り物めいて整った顔立ち。

 短い黒髪に180㎝は超えるだろう高い背丈。

 住民さんにはにこやかに接するが、同僚には一切の笑顔を向けない冷淡主任。

 ただし仕事はできるうえに、どんな業務でも頼りになるので嫌われているわけではない。

 むしろ、まだ20代らしいのに、課長さんたちからも恐れられているらしい。

 ちなみに私は、『新人を任せると辞めさせる可能性がある』という謎の配慮によってまともに会話をしたこともなかった。


 ……普段なら職場に残ってる時間帯だったのにいなかったのは、ここにいたからなのか。

 随分お疲れのようだけど、大丈夫なのかな。


 そう思いながら、一歩踏み出した時。

 思いっきり、その辺りにあった小石を蹴り上げてしまった。