彼女は「ありがとう」と呟き、手を自分の目にやった。



前の学校の友達と話せたこと、誤解が解けたこと・・・



彼女の背負ってきたものが、重さをなくし始めている。


「今日話しかけられたのだって、あなたのおかげだから・・・前の私だったら今日もまた逃げて、その後のこと知らないまま一生引きずっていたと思う」


「いや、俺は別に・・・」


「ううん。あなたのおかげで勇気出せたし・・・また、人を信じられるようになった。本当に・・・ありがとう」


彼女は再び星空を眺めた。

その表情は、いつも以上に晴れやかな気がした。



本当に・・・良かった。



そう思えたとき、先程の胸騒ぎとは違う、胸の高鳴りのようなものを感じた。


「あの・・・水谷さん」


「何?」


「店に入るくらいだから、他に何か話した?」


「お互いの学校のこと・・・向こうは大学だけど。あと・・・『できた?』って聞かれたから、その・・・『うん』って、嘘ついちゃった」


「できたって、何が?」


「そ、その・・・なんでもない。そろそろ、行きましょ。董院さんにお礼言わなきゃね」


彼女は赤くなった頬を隠すように素早く立ち上がり、そのまま歩いていった。