目の前の彼女の言葉で、現実へと引き戻される。

彼女は優しく笑っていて、その表情は凄く暖かく感じられた。


「今までも失っていない・・・ただ、隠れているだけ。あなたは、そう言ってくれたね。あなたのおかげで、私、またハンドボールを始めることができた」


それから彼女は、少しずつ他の人とも話すようになった。

女子ハンドボール部にも入部して、それからの活躍は圧巻の一言だ。


「あなたが友達を紹介してくれて・・・おかげで真美沢さんや桜沢(さくらざわ)さん、他にもたくさん・・・」


「インターハイも行けたしね」


「あの日・・・ずっと正門で待っていてくれたね」


「そうそう、祝勝会があるの知らなくて、九時まで待ったっけ?」


「ごめんなさい・・・でも、インターハイを決めたときよりも、あなたがあのときくれたリストバンド・・・嬉しかった」


嬉しそうにリストバンドを取り出し、優しく何度も撫でた。

それを見ただけでも、あのとき遅くまで待って渡したかいがあったと思える。


「あの修学旅行から、この学校での・・・私の全てが変わった。それも、全てあなたのおかげだから。卒業前にどうして、これだけは伝えておきたかったから・・・本当にありがとう」


「そんな・・・」


「でも、私は流れ星のようなものだから・・・一瞬で流れて、時間が経てば忘れられる・・・」


遠くを見つめ、呟くように言った。



彼女と進路は別々だ。



卒業したら、今までのように簡単に会えるというわけにはいかない。



だけど・・・


「俺、水谷さんのこと、絶対に忘れないよ」


彼女はリストバンドを握り締め、笑顔なのだけどどこか寂しいような表情になり、また遠くを見つめた。