ジリリリリリ
聞きなれない音が私の目を覚ます。
ぼやーっとした視線の先には無造作に置かれた本や服がたくさんあった。
えっ、?
見慣れない光景に混乱した。
ガシャン。
鳴っていた時計を止める音が聞こえた。
誰かいる。
布団が膨らんではしぼんで膨らんではしぼんでを繰り返していた。
なんなのだろう。
私はここから動けない。だから目の前に何かがいたとしても逃げることもなんなのかを見ることも出来ない。
沈黙の中考えるのは悪いことばかり。
ジリリリリリ…ガシャン。
布団の中から出た少し焦げた黒い手。
動けるもの。?
すると動けるものは布団をいっきにはいだ。
彼だ。
何故か不思議とそう思った。
いつも私が見てるのは口のとんがった動物のような仮面にボロボロの服を着た彼だった。なぜそんな姿しか見てないのに彼だとわかったかなんてそんなのわからない。
彼は慌てるように部屋を走り回った。
「遅刻遅刻遅刻!!」
何回も同じ言葉を連呼していた。
「よし!行こう!」
ひとりごとのように少し大きめの声で言ってドアの方へ走った。
「あ、」
彼は中途半端に履いた靴で振り返り
「行ってきます!」
大きな声でそう言った。
バタン。
彼は部屋を出た。
彼がいない沈黙の中、彼のことを考えた。
まるで私に向かって「行ってきます」と聞こえるように言ったかのようで。
彼の帰りが待ち遠しくなった。