私はこの世界のことは何も知らない。
この店を出たらどういう風景が広がっているのか。
ここはまずどういう店なのか
何も知らない。
私が見れるものはこの店の風景。
そしてここからぎりぎり見える外の風景
ほんの10センチしか空いていない隙間から見えるのは、私の好きなもの。
彼はいつも不思議な身なりをしている。
彼は外にいるから大きさなんてわからない声が出るのかもわからない。
ただ彼はとても不思議だった
彼はいつも同じところにいる
じっと止まって。お金というものを渡すと動くのだという。
彼は私と同じなのだろうか。それとも動けるもの、なのだろうか。
カランカラン。
「いらっしゃいませ」
常連客だ。
「いやぁー、あの若者まだあそこで小遣い稼ぎをしてるんだな。初めはみんな物珍しそうにお金をどんどん彼に渡してたがもう珍しさがなくなったせいか、誰も彼を見なくなった。可哀相だが仕方の無いことだな
。まだ若いんだから働けばいいのにさ。」
私はその常連客が店長に話してたことを聞いて彼が思い浮かんだ。
彼は、彼は動けるもの。ということなのだろうか。
よくわからない。聞きたい。彼のこと。聞きたい。でも、でも。私は。
“動けないもの”
常連客は店長と世間話をしてお店を出た。