「お嬢さんはこちらにはおりませんから!
どうぞお引き取り下さいませ!」

お父様は声を荒げながら、瀬田さんとお兄さんの制止を振り切り、順々に手荒く部屋の襖を開けていく。

その度にバンっと音が鳴り、ドクンと心臓が跳ねた。

お客様がいるかも知れないし、旅館の人がいるかも知れないのに、無遠慮にどんどん襖を開けている。

あ、そうだ……。

動けないまま、近づいてくる音と声を聞きながら、さっき瀬田さんが「今は使ってない、改装中の階だから従業員もいないしお客様もいないから、ゆっくりして良いのよ」と、言ってくれた事を思い出した。

良かった、お客様にも旅館の人にも迷惑はかかってないんだ……。

って、旅館にはもう充分迷惑かけてるよね……。

わたしは意を決して立ち上がった。