「こらゆり、お前また走ったな?
着物の裾がはだけておるぞ!

まだ若女将としての自覚をもてんかっ?!」

「なによ! お母さんこそっ!

今日も、土産袋をもって嬉しそうに走り去る大女将が凄いって、大広間でお客様方の話題になってたわよ?!」

やっぱり二人は言い合いを始め、それからいつの間にか並んで笑っていた。
わたしと翔護はそんな2人の様子に笑って、それから部屋に戻った。

「凛、大好き……」

「翔護、わたしも大好きだよ……」

夜、二人きりの部屋で。
いつもの通り布団を寄せて眠る前のやり取りが、今日はいつもよりも重要なものに感じた。

昼、お母さんが来た。
誰にも所在も、翔護のことも言わないって言っていたけれど、本当かな……?

「凛、 何も心配いらないから」

わたしの気持ちをわかっているように、安心させるように、翔護はそう言って手をぎゅっと握ってくれた。

「ありがとう……」

「さ、もう寝よう。
明日も朝から仕事だから」

チュッと音を立ててわたしに一つキスをして、翔護は微笑んだ。

「ん……。
おやすみなさい……」