顔を上げると、さっきまでの寝ぼけ眼とは明らかに違う、真剣な眼差しの翔護がいた。

「提案なんだけどさ、家出、する気ある?」

「家、出……?」

突拍子のない提案に、わたしは目を見開いた。
いつも慎重な翔護が、まさか家出なんて口にするとは思わなかった。

「あ、やっぱりおかしいよね?
ごめん、忘れて?

突然婚約者とか、旦那様さすがに酷すぎるって思って……。

俺も嫌だし。
凛が家出でもしたら、旦那様も少しは傲慢なことを自覚して懲りるかなって。

丁度夏休みだし、学校関係で困ることもないしって、ちょっと思っただけなんだ」

変なこといったね、ごめん、と頭をかく翔護の苦笑いを下から見つめながら、わたしは心を決めた。