「お嬢様、こちらへいらして下さい」

翔護はわたしの手をそっと取って、扉の前から離れ、部屋の隅へと移動した。
扉には、翔護が後ろ手で鍵を掛けた。
部屋のこの場所は、声も漏れにくいし、窓からも死角。

「凛……。
おはようのキスして、良い?」

「聞かないで、して……?」

「凛、可愛い……」

朝、わたしは出来ない子のフリをする。
毎日じゃ怪しまれるから、時々。

本当は、支度なんて終わってるし、一人で出来る。
でも、出来ないフリをして、翔護を部屋に、呼び寄せる。

そして、名前を呼んで、抱きしめてもらう。
キスしてもらうようになったのは、つい最近のこと。