寒々しい明け方、瞳子は長い髪をまとめて着物の裾をたくしあげた。それを髪ひもで結び、自宅の裏口から外に出た。
垣根を越え、まだ人のいない道を足音をたてないように走り出した。
心は怒りと混乱で燃え上がっていた。
元々自分はトラブルを起こしやすい人間だと自覚しているし、自らを激動の中に置く気質がある。
だが今回の由紀夫の件は意味がわからなかった。
確かに自分は由紀夫を差し置いて他の男、京介とも愛し合う関係にあるが、それとこれは別だと今までずっと瞳子は思っていた。
由紀夫は瞳子に別の恋人がいることも知っていたし、瞳子自身も由紀夫に自分以外の女がいることを知っていた。
「どういうことよ」
小さくつぶやきながら草履を履く足で地面を蹴りつけた。
ぺたんっ、ぺたんっ、とだらしのない音がした。
瞳子は唇を噛み、ただひたすら走った。