悲しみに、こんにちは2


制服姿の入家 さくらが休憩中だからと言って
テーブルの向かいに座ったのは

わたしがファミレスに来て一時間ほど経過したころだ。

テーブルの上のコーヒーはすっかり冷めていて
ほろ苦い。



「……えっと、芹沢さんだよね?」

入家 さくらは高いソプラノ声で私に尋ねた

思えば、ハル君に紹介された時に顔を合わせたくらいで
彼女の声を聞いたのは初めてかもしれない




「……突然、すみません。ハル君の幼なじみの芹沢 ユズキです」


ああ、失敗した、
幼なじみ、はいらんだろ
なに張りやってるんだ……?


「弟とも仲がいいのよね?」

「……皐月君がそう言ったんですか?」


「あら、違うのかしら?」



入家 皐月に似た人形のような白い顔した女が首をかしげた



姉を前にして、仲が悪いとは言えないな……



「……いえ、友人ですよ」



「芹沢さんのことは前から知っていたわ、長門君に会う前からね」



「えっ?なんでですか?」




「芹沢さんって有名よ、可愛くて目立つから」



確かに、派手めな印象の私は
噂が立ちやすいが
何よりも、皮肉さを全く持たずに私を褒める余裕さが
彼女の態度から表れていた



まるで彼女は
手の届かない遥か高みから
私を見下ろしているようだった



「……本題に入ります……
これを見て下さい」



私はロックを外したスマホの画面を彼女に突き出した




「……この間、貴女を見ました」



「……これ、盗撮よ」




「……誰か1人に選んでください」



わたしは絶対に目をそらさない
なぜなら、彼女はずっと微笑んでる
一瞬たりとも動揺も戸惑いもみせないからだ

目をそらしたら、私の負けだ




「芹沢さん、私のこと知ってるの?」


「ハル君の他にも何人かいるんですよね、男」



「ええ」




「誰か1人だけを好きになることは出来ないのですか?」



「無理ね……」



「……どうして?」




「私は誰も好きじゃないわ、もちろん長門君も」


「えっ……?」


うるさい店内の中で
私だけがひとりぼっちの気がした




「別に好きだから、付き合ってるわけじゃないわ」



コーヒーの苦味すら
わたしの舌を通らない



「私を好きだって言うから、付き合ってるだけよ」



薄い口紅が私を染めていく