復讐屋―儚く、朧気に―




「まず、ターゲットの名前を」


私は、憎いあの女の顔を思いだしながら言う。



「芝崎三香子です」


「芝崎三香子……」



紬さんは、どこからとなく取り出したメモ帳にすらすらと記入する。



「同じ大学なんでしたっけ?」


「はい。西王子です。学部も同じで、確かあの女はバスケ同好会に入ってました」



バスケ?と問う紬さんに、こくりと頷く。


私のかつての彼氏がそのバスケ同好会に入っている。

それだから入った。とてもくだらない理由だ。


「へえ。じゃあ、彼女に自分と同じ目にあってほしい、っていってたけど、具体的には?」


具体的……私がされたこと……。



「私は、いじめられました。お金取られたり、水かけられたり。……でも、そんなのは、どうでもよかった。

私は、親友と彼氏を取られたのが許せない!
だから、私の親友と彼氏……あいつが奪った二人を取り返して、私と同じ気持ちをおもいしってほしい!!」



私は必死に訴えた。


悔しいし、悲しい。


それ以上に、


──憎たらしい。




「分かりました。お引き受け致します」



ニヤリ、と笑った顔は、私の知っている"紬さん"ではなく、"復讐屋復讐代行人紬"だった。




「さっそく、明日からでいいですか?」


「はい。お願いします」


「貴女は同行せずに、普通に過ごしてください。それと、俺と貴女は知り合いということにしといて下さい。

 俺はターゲットに接触する際、
"堤崎 夢生(ツツミザキ ムウ)"として接しますので、ご了承下さい。

 あともう一人。彼氏さんの気をひく為に、もう一人代行人を呼びます。
その人には、"間戸セリナ(マト セリナ)"と名乗って貰いますから、そちらもご了承下さい。

依頼終了時には、ご連絡致します。電話番号をお聞きしても?」


「はい!」


私は、渡された手帳に、すらすらと携帯番号をかく。

手帳を返すと、にこり、と微笑まれた。



「依頼終了時をお楽しみに」



私はその言葉を背に、嬉々として帰路へとついた。




香取愛美side end