母さんは泣きじゃくっている。俺はこっぴどく叱られた。アドレナリンが出ていて痛みがなかったのか、頭蓋骨骨折していたらしい。手術しなければならない。聞いた途端頭が痛くなった。
問題は兄だ。兄は生と死の境目を彷徨っている。落ちた衝撃より、あの岩で顔をぶつけた傷かヤバかったらしい。兄は集中治療室にいる。
俺も手術しなければならない。


五日後、俺は兄と対面する。
兄はまだ目を覚まさない。包帯グルグルで、ミイラみたいだ。荒々しい呼吸音しか聞こえない。兄と俺だけの病室。俺は、兄の手を取った。痛々しい傷が手にも残っている。死んでるみたいに冷たくて、悲しくなった。少し前までは口うるさく俺に構ってきた兄。今、兄は俺の目の前で包帯だらけで、青い簡素な患者服を着て、苦しそうに呼吸している。
「兄ちゃん…」
俺は泣き虫だった。強がりのくせに泣き虫。そんな俺を兄はいつも優しく抱いた。また泣いたら、兄ちゃんはいつものように、「もう、これくらいで泣くなよ!」って頭を撫でてくれるんじゃないかと思った。
もし、兄が目を覚ましたら精一杯謝ろう。俺のせいで兄はこうなったんだから。もし、、兄がおれを押していなかったら、今ここで寝てるのは俺だ。俺の頭の傷なんて全然痛くない。兄にくらべたらこんなもの…。
俺は兄に話しかける。
「俺さ、明日さ、退院なんよ。病院ってさ、超ヒマやんな!!兄ちゃんも早く退院できるとええな!」
兄の手をさする。兄は、ただ呼吸している。

俺は退院し、学校へ行った。みんな俺を心配してた。
「大丈夫!?結構大変やったみたいやけど…」
「あー、俺は全然大丈夫やで。気にせんといて」
前に一緒に肝試しに行ったやつらとは話さなかった。俺は避けられてた。アイツらが兄の病室にいた時、偶然俺が入ったらそそくさと逃げ帰った。案の定、学校でも避けられた。