「お前の言ってた研究所…だっけ、そこにはセレンと同じくらい優秀なやつっていないのかよ」

「…研究員には居ません。恐らく私も殺されますから、きっと」

「じゃあさ!」

ゼロの言葉を遮って、ヘリオが叫んだ。

「N様って奴に会わせろ。そいつは覚醒剤の抗体を持ってるんだろ?全宇宙の物質…それこそ原子とか陽子が知能を持ってもぶち抜いて一位になれる頭脳…そう聞いてる」

ゼロは微笑をうかべながら哀しげに言った。

「はい、案内します船長。私の命がそこまで持てば、ですが」

「…はぁ?」

「私は、保険のようなものです。一応研究員の中で二位だった…と言いますか、私ははたから見ればL君の秘書にでも見えるのでしょう」

ですからと。

ゼロは既にボロボロだった服を引き裂いた。

「!」

浮かべられる微笑に、ヘリオは悪夢を見ているような気になった。

「L君を失って困る方々は、私の心臓に鎖をかけました。彼を掌握している研究所への、牽制のように」

痛々しくところどころ皮膚が剥がれ落ち、至るところに開いている穴。

人間ならば死んでいるであろうその中の1つに、心臓が覗いていたのだ。

「こういう事をするために私は生かされてきました…この鎖をかけた方々は知らないでしょう、私が研究所にとってなんの価値もないなんて…」

強化ガラスの肋骨に守られるように鼓動する深紅の心臓は、大小様々の鎖が巻かれ、苦しげだった。

「スイッチ1つで私の心臓は破裂します。コントロールもできますから、中途半端に締め上げられることもあります」

L君が生き返っても…絶対に言わないで下さい船長。

「意地でも私を救ってくれるでしょうから…L君は優しい子です」


疲れたような微笑みに、ヘリオは狂気すら感じた。

「なんで…セレンの為に…ここまで…」

「いいえ、あなたは勘違いしているようですねヘリオさん。別に私はこうなることを望んだ訳ではありません。私以上で私未満の研究員が居なかっただけです」

「でも、こんな…!」

「お察しの通り、私は彼処ではコンピューターの延長として扱われます。まあ実際のところ正しい扱いですが一応心はあるので楽しくはないです」

「…!」

「L君は、私を唯一慕ってくれました…始めてそこで、私は愛情と言うものを知りました」

微笑したまま、ゼロはゆっくりと携帯魔法陣を差し出した。


「行きましょうか、魔界へ…」


瞬間。

輝くような光が放たれ、全てを飲み込んでいった。