☆Friend&ship☆-妖精の探し人-


「きゃぁぁぁぁぁぁっっっっ!!」

「…」

絶叫に近い悲鳴に、セレンはフッと振り向いて真正面の穴を見つめた。

一瞬考えて、バリアを解くと素早く穴に滑り込む。


黒い部屋についてそこを見渡せば、左手前の扉が開いている。


その手前に倒れているシルンを見て、その瞬間崩れ落ちた。


「…し、シルン…?」

這うようにしてシルンに近づくと、また絶叫が響き渡った。

「おい、シルン、何をされた!シルン!」

           
シルンの体は、内側から“溶けて”いた。

いや、腐っていたという方が正しいかもしれない。

酷い腐敗臭がたちこめ、セレンの吐き気を誘った。

「あ、あっ…せ…れ…」

伸ばした手は、そこから溶けていって肘でポタリと落ちる。

溢れる涙を拭って、セレンは優しく諭した。

「シルン、喋るな、喋るなシルン…」

「いた…い…い…たい…よ…セ…レ…」

溢れだす涙がその苦しみを物語っている。

セレンは溶け出す皮膚が絡み付くのも構わず、シルンを抱きしめた。

なぜか無条件に安心する声に、シルンは目を閉じた。

「こわ…い…死ぬの…こわい…よ…せれ…ん…たすけ…て…」

「大丈夫だ、大丈夫だからな…」

「う、う…」

シルンはすすり泣いてセレンにすがりつく。

そっと背中を撫でて、殆ど腐った肉に、セレンは限界を感じた。


もう、シルンは駄目だろう。


そんな冷静な声がして、爆発しそうな反抗がむくむくと首をもたげた。

でも、まともな反論すらできず沈められていくそれにセレンは泣いた。

「う、痛い…いた…い…いや…いや…行かないで…側に…いて…」

「大丈夫だ、最後まで側にいるからな…」

「う、セレン…苦…しい…セレン…約…束…おぼ…え…て…る?」

「約束…?」

シルンは零れそうな瞳で泣きながら笑った。

「うん…キス…してよ…セレン…」

あぁそうだ。

セレンは思い出す。

俺がお前を殺したら。

お前にキスしてやると。

それは絶対にシルンを受け入れないという比喩でもあったが、こうなってしまえばもうただの約束だった。

「…」

「ね、セ…レン…楽に…な…り…た…い…」

「シルン」

「ギ…リシ…ア…ギリ…シアって呼んで…」

「ギリシスじゃないのか」

へへ、とシルンは微笑んだ。

私ね、ずっと男の子として生きてきたの。

ギリシアって…女の子みたいでしょ?

だから…

「ねぇ…セレン…」

「ホセだ」

「ホセ…?」

「俺の、本当の名前」

シルン…いや、ギリシアは幸せそうにその名前を舌で転がす。

幸せだ。

ホセ、それがセレンの…本当の名前。


セレンは暫くゆっくりと背中を撫でて、ギリシアをこちらに向かせた。

「ホセ…」

「ギリシア、一生忘れないからな」

静かに重なった唇は、甘い血と、苦しい涙の味がした。