セレンが睡魔と戦っているころ、ヘリオは悪魔と戦っていた。
「…キース、お前一旦休め。無理すんな死ぬぞ」
「駄目だよ、僕はまだやれる…」
「俺らだけでいい、キース」
とりつかれたように剣を振るうキースは瞳が死んでいて、とめどなく涙が溢れだしていた。
ウィングが倒れたことで精神的に限界を迎えてしまったのだろう、およそ大丈夫には見えない。
「おいキース本当にお前…」
「うっ…」
「は、おいキ…」
ドサッと、あまりにも突然倒れた音に驚いて、ヘリオは駆け寄った。
「おい、おいどうしたんだよキング!」
はぁ、はぁと苦しげな呼吸音は、激しく上下する肩と同じリズム。
心臓を押さえてうめくキングに、ヘリオは敵を斬りつつなんとかウィングの近くまで引きずっていった。
「おい、どうしたんだよ!」
「わる…い…はぁ…持病…カモ…?」
「可愛く言ってんじゃねー馬鹿、薬は!?」
「ん…大丈夫、死んだりしねーよ…でも…わりぃな数時間無理」
「…了解」
ヘリオは素早く突かれた剣をかわしつつそう言った。
もう、怒鳴りたいとすら思わない。
「つか…なんなんだよこいつら…つえーんだけど…」
通常の人間がこんなに強いというか、多いと思わなかった。
まさにいくらでも湧いてくる。
「天然水かよ…!」
降り注ぐ血雨とはほど遠かったが、泉を連想させる人数だった。
だんだん、体力が奪われていく。
「…くっそ、南アルプス野郎が…っ!」
相手は南アルプスではないがヘリオはそう叫んだ。
「っ、キース、お前いい加減に…」
キースは痛みすら感じていないようだった。
ヘリオは、ただただ敵を倒すことだけ考え剣を振るった。


