ノーティーアップル



「あ、凪くん私のお気に入りのカクテル飲んでる!真似したでしょ」

これは引き止められてるのかな…?

「あ、そうだったの?偶然だね、前友達から一口もらったときに美味しかったから頼んでみたんだ」

他の同期がいるところでこんな積極的に話しかけられるのは初めてだ。

さっき会社にいたときに周りを気にしていた彼女はどこに行ったんだ。

こちらも負けじとギリギリのラインの話題を攻めた。


「ほら、凪くんは帰るって言うんだからあんまり引き止めない方がいいでしょ。終電もあるんだし」


…終電。そういえば彼女の終電こそそろそろなんじゃないか。


「あ、終電?!待って、今何時?」

また同じことを思いついたのか。僕の時計を慌てて覗き込んだ。

「え、12時回ろうとしてるの?!
やばい、私二軒目とか言ってる暇なかったじゃん」

そう言って入店早々Uターンする彼女。


「え、本気で言ってるの?じゃあ私も…」


先ほど同様考えより先に体が動いた。
彼女に引き続いて店を出ようとする同僚を気付いたら引き止めていた。


「ごめん、このカクテル本当においしいから残り飲んでいってもらってもいい?
山下さんは僕が駅まで送ってくから」


自分の大胆さに唖然としている彼女。我ながらすごいことを言ったものだ。


けど、口から出てしまった言葉はもう修正できない。
財布から多めにお札を取り出して、バーテンダーに渡したら、おかしそうに笑っていた。

「彼女にもう一杯奢ってください」

「かしこまりました。ありがとうございました。お気をつけて、また来てくださいね」

そんな彼の言葉と事態が飲み込めていない同僚を横目に、彼女と一緒に店を出た。