「自分も20代半ばだし、仕事にも慣れてきた頃で、そろそろ落ち着いた方がいいと思うんですけどねー。
あんな小悪魔みたいな子に振り回されてるのを楽しんじゃってる今、他の女の子と付き合おうとかって考えられなくて。
先行き不安ですよね」
自虐的に面白おかしく言ったつもりだったが、バーテンダーは悲しそうに笑いかけてきた。
「んー、付き合うなら他の子なの?彼女のことを今の段階から諦めるのもおかしな話だなって思うけど」
思いもしないリアクションに一瞬思考が止まってしまった。
「彼氏持ちの子で、しかもすでに体の関係まで持ってるのに、付き合おうなんて考えてもらえます…?」
再び意地悪そうな笑顔を取り戻し、バーテンが返す。
「もう少し凪くんは自信を持った方がいいと思うよ。彼女は思ってるよりも、したたかじゃないかもしれない。
僕の口からはあんまり言えないけど、彼女、たまにそこの席に座って同じものを飲みながら色々話してくれるの」
「え…?」
「数週間前に彼女が来たときに、今の台詞と全く同じようなことを言ってたから驚いたよ。
僕は凪くんのことよく知らないから、彼女に対しては後悔しない選択をしてねとしか言えなかったんだけど。
今の言葉を聞いたら、背中を押した方がいいのかなと思って、アドバイスさせてもらっちゃった。
そんな自虐的にならないで、自分本位に…ね」
驚いた。
バーテンが語る彼女の姿は、僕の知ってる彼女とはかなり違う女性。
僕の中での彼女は、自由奔放で、僕のことを振り回して、したたかで、いつもすべてのことを笑い飛ばしてる。
よく言えば余裕があるけど、プライベートで真面目なとこなんてろくに見たことがなかったのに。
そんな話を聞いたら、余計に彼女に会いたいと思う気持ちが強まってしまった。

