目の前の荻原は戸惑っている。

当たり前か、いきなり名前で呼ぼうなんて言われたらそうなるか。

そう思っていたら、
「――よ、呼び捨てですか?」

荻原が聞いてきた。

「そうだけど?」

僕は荻原の質問に答えた。

ポーッと、荻原はさらに顔を紅くさせた。

「荻原が嫌ならば別に今のままでも構わないんだぞ?」

そう言った僕に、
「よ、呼びます!

先生のこと、名前で呼びますから!」

荻原が慌てたように言い返した。

「じゃあ、決定だな」

僕は言うと、荻原の名前を呼ぶために唇を開いた。

「美咲」

名前を呼ぶと、
「――ま、雅仁さん……」

荻原が僕の名前を呼んだ。

へえ、“雅仁さん”と呼ぶことにしたのか。

そう思いながら、僕は荻原と一緒に微笑みあった。