「ピアノまで習っていたのに、どうして音楽の道へ進もうと思わなかったんですか?」

わたしは聞いた。

教え方は厳しい――先生のセクハラに乗せられるまま、大きな声を出したけど――けど、ピアノの腕前は文句はなしである。

「子供の頃から先生になりたいと思ったから」

わたしの質問に先生が答えた。

「じゃあ、音楽の先生でもよかったじゃないですか。

どうして数学の先生になったんですか?」

続けて先生に質問をしたら、
「荻原ほどではないけど、数学が得意だったから。

高校時代のコース分けも理数系コースを選んだくらいだし」

先生は答えた。

「へえ、そうだったんですか」

そう返事をしたら、
「じゃ、続きをやるぞ。

さっきの声量で頼むぞ」

ポーンと、先生はまたキーボードのうえに指を置いた。