「彼女は、俺の妻――1年って言う短い間だったけど――なんだ」

そう言った九重に、
「五十鈴の母親に当たる人か?」

安部が聞いた。

九重は首を縦に振ってうなずくと、
「今日は彼女――雪音の命日なんだ」
と、言った。

「命日、ですか…」

呟くようにそう言った希望に、
「彼女を例えるとするならば、“雪女”だった。

だけど、雪女は心に寂しさを抱えていたんだ」

九重が言った。

「俺がそんな彼女に恋をしたのは、23歳の時だった」

それは、真夏に出会った雪女との恋の物語――。