その瞬間、平雪音の目が潤んだような気がした。

「…ありがとうございます」

彼女は母にお礼を言った後、割り箸を手に持った。

「いただきます…」

両手をあわせて呟くように言うと、にゅうめんをすすった。

「美味しい…」

そう呟いた彼女の声は、
「ありがとう」

母の耳に届いていた。

「ごちそうさまでした」

汁まで飲んだ丼を平雪音はテーブルのうえに戻した。

「こちらこそ、どうもありがとう」

母はテーブルのうえの丼を片づけると、代わりにコップとスポーツドリンクを置いた。