「さあ、できたわよ」

母の声がしたのと同時に、かつおだしのいい匂いがした。

それまで横を向いていた平雪音がこちらに視線を向けてきた。

「お口にあうかどうかはわからないけれど。

九重、テーブルを寄せて」

「あ、うん…」

母の指示で、僕はテーブルをこちらの方に寄せた。

寄せたテーブルのうえに、母は丼を置いた。

冬瓜が入ったにゅうめんだった。

平雪音はゆっくりと躰を起こした。

「あの…食べていいんですか?」

不思議そうに聞いてきた彼女に、
「もちろんよ。

あなたのために作ったんだから」

母は微笑みながら答えた。