その声に視線を向けると…昨日の修羅場にいた、あの彼女だった。

「そうだけど、君は…?」

そう言った僕に、
「これ、落としましたよ」

彼女は何かを差し出してきた。

緑色の革の定期入れだった。

中に入っているのは、免許証だ。

免許証の名前と写真を確認すると、僕のだった。

「どうもありがとう、助かったよ」

僕はお礼を言うと、彼女の手から定期入れを受け取った。

彼女の爪には深紅のネイルが施されていた。

「今度からは落とさないように気をつけてくださいね」

そう言った彼女に、
「気をつけるよ」

僕は答えた。

彼女は会釈をした後、カツカツとヒールを鳴らしながらその場から立ち去った。