腰まで伸ばした黒髪は仕事の邪魔にならないように常にひっつめにして束ねている。

スーツは主にパンツスーツで、色は黒かグレー、シャツは白が基本だ。

この格好ゆえに、若い彼女たちから“地味子”だ“お局様”だと陰口をたたかれるのは仕方がないことである。

「まあ、自分から望んでやっている訳だけど」

シンクの自分に向かってそう呟いた後、静かに給湯室から立ち去った。

秘書室で仕事をしていたら、デスクのうえの電話が鳴った。

「もしもし？」

受話器を手に取ると、
「桃子ちゃん？」

竜馬からだった。

「何かご用でしょうか？」

私が社長室を後にしてから、少なくとも１０分は経っている。

「コーヒーのおかわりをお願いしたいんだけど」

そう言った竜馬に、
「２杯目は自分で入れると言う約束でしたよね」

私は断ると電話を切った。