「本当の父親じゃなきゃ…
父親にはなれないの?」
「…なれないよ。
だって。
どこかで必ず…血を分けてない壁がおとずれる。」
「でも…それは努力次第で乗り越えられる壁じゃないのかな?」
社長がどんなつもりでそんな事を言ったのかは分からなかった。
けれど、もし…軽い気持ちで
口先だけの言葉なら。
それはあまりにも失礼な言葉のように聞こえてならなかった。
「社長は…、親になったことがないから分からないんです。
家庭を築きあげる大変さも
子育ての苦労も知らないからそんなことが言えるんです。」
突き放すように言った私に
社長は小さく頷いた。
「結花さんの言うことは間違ってないと思う。
けどね…
そうやって、途中から家庭を築きあげてる家だってあるんだ。
最初からの家族じゃないから、乗り越えなきゃいけない壁は普通より高いかも知れないけれど…
俺から見た結花さんは
ただ、逃げてるだけのように思える。
大切な事から真っ正面に向き合わないでさ…」
「逃げてないよっ…」
「逃げてるよ。」
断言する社長を、キッと睨みつける。
「私の何が逃げてるように見えるの?」
すると社長は突然
私の前髪をかきあげて
顔を近付けると
真っ直ぐな目で
私の触れて欲しくない心の扉の、ノブに手をかけるように聞いてきた。
「俺のことを好きだってことから逃げてるでしょ?」


